Epic Games Storeで2020年5月に無料配布されていた『Grand Theft Auto 5』をクリアした。GTAシリーズは4をクリア済みだったが、あまり記憶に残っていない。つまり、つまらなくもないし、面白くもなかったのだろう。で、GTA 5をクリアしてみて思ったのが、「つまらなくはないし、面白くもない」だった。

GTA 5はゲームプレイは基本的に3つに分かれている。「銃で人を撃つ」「乗り物を運転する」「カットシーンを鑑賞する」のこれだけ。テニスなどのミニゲームもあるが、どれもクソつまらないので無いのと同じ。で、最初の二つ、銃撃戦と運転はあんまりおもしろくない。銃撃戦はカバーしながらシュポシュポするタイプ。爽快感はない。そして結構すぐ死ぬ。でも武器の種類はバリエーションが結構豊富。運転も最初こそ楽しかったのだが、同じような所を延々と走っていると飽きが来る。サーキットを走っている訳じゃないので他の車にもイライラすることが多い。

となると、このゲームで一番重要なのはカットシーン、つまりストーリー。いや、もっと広くとらえて舞台となる「ロスサントス」と「3人の主人公」がこのゲームの肝だった。

ロスサントスはロサンゼルスをもとにした架空の都市なのだろう。ロスをよく知らないが、安っぽい家が立ち並ぶ治安の悪そうな場所もあれば超高層ビルが立ち並ぶオフィス街、海に面したビーチ、鬱蒼とした山々に郊外の荒れ地などバラエティーに富んでいる。このロスサントスの街並みに現代アメリカ社会が抱える問題を上からぶっかけたのがGTA5の世界。テレビをつけると右派むけ、左派むけの番組が流れておりどちらも頭のいかれた内容だった。登場人物は麻薬常習者ばかりで人を殺してもなんとも思わないサイコパスばっかり。現実のアメリカがここまでひどいとは思わないが、Qアノンや乱射事件などの報道でイメージされる”アメリカ感”がビンビン伝わってくる。この世界観が本当によくできているのだ。

主人公の3人も、もちろん暴力的でどうかしている奴らだが、郊外に住んでいたトレバーは3人の中でも頭一つ抜けたイカレ野郎。銃や薬物の密輸出入で生計を立てており精神的にも不安定。最初は全く感情移入できなかった。しかし、ストーリーを進めていくと愛着が湧いてきた。とても不思議だ。おそらく周りの人間もすべてイカレているので感覚が麻痺してくるのだろう。そして、ひどく暴力的なトレバーが時々見せる仲間思いな一面や脆弱で幼稚な精神が人間味として感じられてくる。トレバーはまさに田舎のヤンキーなのだ。不良が雨の中、捨てられた子猫を抱きかかえる、テンプレートとしてのそれだ。アベレージとしてエクスリームなクズだが、ふり幅でキャラクターが際立って見えた。

別の主人公マイケルも基本的にクズだ。だが、マイケルには家族がある。後ろ暗い過去もある。経済的に成功しているが中身は満たされていない。なんだか哀愁漂うキャラクターになっている。マイケルはトレバーと旧知だが狂犬のようなトレバーとはどこか距離を置こうとしている。失うものがないトレバーと家族のあるマイケルは対称的に描かれており、暗い過去の出来事からなんとか逃げようとするマイケルはストーリーの核として存在する。過去を清算してまっとうに生きていきたいだけのなのに全て裏目にでて気づけば泥沼のはまっているマイケルは最も共感しやすい。そしてこの中年のおっさんキャラから時々あふれ出る暴力的で打算的な言動は、人は簡単に変われない、ということをよく表している。

主人公の最後の一人フランクリンはトレバーとマイケルをつなぐ接着材として用意されており、彼自身は没個性的に感じた。3人の中では、まともな事をかなり言うし、文句を言いつつも困っている家族や友人の人助けもする。結果的には巻き込まれるような形でマイケルとトレバーに付き合っているが、この二人を結構気に入っている節があり、とくにマイケルとは年の差からまるで疑似的な父と息子のような印象さえ持つ。

GTA5のストーリー自体はそこまで面白いわけではない。GTA5が楽しめるかどうかは3人のキャラクターにどれだけ感情移入できるか、ロスサントスを介してアメリカの社会問題に関心を持てるかにかかっている。チンピラトリオと病んだ都市が肌に合わなければ射撃乗り物ミニゲーム集のように映るだろう。

さて、それを踏まえて私はどうだったか。確かに主人公たちに共感できるところもあった。でも結局は敵対組織を全員ぶっ殺していくのがこのゲームの宿命だし、チンピラ・ヤンキーマインドにもおなかいっぱいで胸焼けしそうだ。ロスサントスだって日本人の私からしたらあまりにも非現実的過ぎるように思えた。街並みがリアルなのに住人たちがぶっ壊れすぎに感じる。最初は面白がっていたが、津波のような皮肉についていけなくなってきた。ふむ、やっぱり「つまらなくはないし、面白くもない」というのが正直な感想だ。